◼️ いつも見ているもの
弁当のフタに、小さなシールが貼ってある。
「冷める前にお召し上がりください」
いつも同じ文。
見ているはずなのに、読んでいなかった。
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◼️ 温かいうち
少しだけ時間があった日、
受け取ってすぐ、近くのベンチに座った。
シールをはがして、フタを開ける。
まだ、ほんのり湯気が残っている。
一口食べる。
少しだけ熱い。
味は、特別なものじゃない。
でも、なぜか、ちゃんと食べている感じがした。
途中で電話が鳴り、手を止める。
戻ったときには、少しだけ冷めていた。
もう一口、食べる。
さっきと同じはずなのに、
どこかだけ、違っていた。
そのまま、最後まで食べた。
—-
◼️ 少しだけ遅れて
次の日も、同じ弁当を買った。
同じシール。
今度は、すぐに開けた。
まだ温かい。
一口。
少しだけ熱い。
ふと、
昔、台所で食べたものを思い出した。
できたばかりのものを、
そのまま手渡されたときの感じ。
食べ終わってから、
机の上に残ったシールを見る。
「冷める前にお召し上がりください」
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◼️ それから
その日から、
できるだけすぐに食べるようにした。
温かいうちに。
まだ、その時間が残っているうちに。